コノ土地には、古くから「天空の塔」と呼ばれているダンジョンがある。
塔の周りには常に暗雲が立ち込めていて、全貌を伺い知るコトは出来ない。
塔内では、宝箱や出没するモンスターを倒すと金貨や宝石、レアアイテムが手に入る。
それらを目当てに、一攫千金を目論む冒険者は後を絶たない。
しかし、生きて塔から戻れる者はほんの僅かしか居なかった・・。
「ほう、ずいぶんと珍しいモノを持っているな。」
日が傾きかけ、天空の塔から生きて帰って来た冒険者に男は声をかけた。
(「珍しいモノ?、貴重とか、高価なモノじゃないのか?」)
37階層で「偶然」手に入れたアイテムを握り締め
冒険者は、うさんくさそうな目で男を見つめる。
「ソレはな、ウーツ鋼と言う鉱石じゃ。」 「貴重なモノには違いない・・。」
「だがな、扱える者が居なければ、タダの珍しいだけの石じゃよ。」
男は、冒険者の心を見透かすかのように答えた。
「コレに、どんな価値がある。」冒険者は問いかけた。
「何を望む?」 「金か?」 「名声か?」 「この国の王に?」男は聞く。
「そんなモノは望まない。」 「この街の平和と、子供たちの未来を・・。」
冒険者はささやく様に答える。
「ふむ?武器がよいかの。」 「お主の望みを叶えて見せよう。」
「わしの名前は、YANAGI」 「十日後のコノ刻に、また会おう・・。」
男が言い終えると、一陣の風が吹き、姿が消えた。
気がつくと、冒険者が持っていたはずの「ウーツ鋼」も消えていた。
「(チッ、)だまされたか・・。」 「地上だからとて、油断も出来ないな。」
悪態をつきながら、冒険者は宿へと帰っていった。
十日後の夕刻・・。
天空の塔から生きて戻った冒険者は人だかりを目にした。
「今日はなにかの祭りかい?」冒険者は人だかりに問いかけた。
「地面に短剣みたいなのが刺さっているんだが、抜けないらしいんだ。」 一人の男が答える。
冒険者は一瞬考え、人垣を掻き分けて短剣に近づいた。
「すまない!」 少し大きな声で群集を威圧し、地面から静かに短剣を引き抜いた。
手にしたのは「37層の多層鍛造構造のナイフ(Damascus knife)」
刀身には「YANAGI」と刻まれている。
十年後、天空の塔からモンスターは消えていた。
「※柳 宗理 キッチングッズキャンペーン」物語より。